第2回「実写VRにおける物語の構成のしかた」
前回は「VRにおけるカメラ目線の効果」をお伝えしましたが、今回はVRにおいての物語の構成、展開を考えていきます。
「視野角90度は広い?狭い?」
実写VR、いわゆる360度動画は一度に全方位を撮影できる技術なのですが、とはいえ体験者が一度に360度全てを見渡せるものではありません。
現在市販されているVR機器は、GearVR、ハコスコなどのスマホで視聴するものから 、HTCVive、OculusLift、PlayStationVRなどのVR専用機まで様々あり、またはGoogleMapのように2D上でドラッグしたりジャイロコントロールに追随させる方法もありますが、ここではHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着したVR体験を前提にします。
一般的に人間の視野は180〜220度と言われているのに対しHMD(ヘッドマウントディスプレイ)は、概ね90〜110度程度の範囲の視野角です。
90〜110度と言われてもピンと来ないと思いますので体を使って説明しますと、「前ならえ」のように両手を目の前にまっすぐ伸ばすと手のひらの間が肩幅になります。その幅を2倍ぐらいに広げた内側にある空間がVRで見えている範囲とおよそ同じぐらいだと思って下さい。
映画のスクリーンか50インチテレビほどの大画面があるように感じられるのですが、作り手としてはこの90度の中に見せたいものを入れなくてはいけない難しさがあります。
例えば「主人公の驚いた顔」を伝えたいとき、2D映像で編集していく場合は印象的なアップを数秒入れれば十分伝わります。むしろ、ごく短時間の方が緊迫感のあるテンポが出たりします。
それに対し360動画でそれを伝えたい場合、見せたいイベントを入れていても体験者が必ずしもそこを見ているとは限らないので1カット数秒という編集で何かを伝えるのは難しいものがあります。
VRでの構成を考えるときにまず理解しておきたいのは、視点の決定権は体験者にあるので2Dのように強制的に「見せる」ことはできないということです。
無理に何かを見せようと演出すると、かえって体験者の気持ちと物語のテンポが噛み合わず、何かに気がつくのに遅れて振り向いたら大事なイベントを見逃していて、慌てて逆を見たらそちらのイベントも見逃してしまうということが繰り返され、結局さっぱり分からなかったという事態になりかねません。
「連れていく」感じで
この感覚を制作側と体験者を親と子に置き換えてなんとか言語化してみますと、2Dは膝の上に子供を乗せて絵本を読み聞かせているときで、VRは見晴らしの良い山の頂上に二人で到着したときと言えば分かるでしょうか。
子供に絵本を読み聞かせるとき、ページをめくるテンポや声色を使った演出は親の手の内にあって、あの手この手で子供の意識を絵本の中に引き込むことができます。
それに対し、山の頂上で素晴らしい景色が広がっているときに、「ここを見なさい」と強制するより、手を放し本人の感覚に任せて「あそこに動物がいる!」と自分で発見させるものではないでしょうか。
そして一通り満足させた上で興味を持ったものに対し「あれはカモシカだね」などと補足の情報を伝えてあげると納得して理解してくれると思います。
VRは、「見せる」より「連れていく」感覚、または「見る」というより「居る」という感覚で作られるものだとご理解いただけたでしょうか。
次回は「実写VRにおける視点」について考えて行きます。